「とにかく早く離婚したかった」――その一言が、その後の長いトラブルの始まりでした。荒川区南千住に共有名義のマンションを持ち、ペアローンを組んでいた40代夫婦が、財産分与・養育費を何も決めずに離婚届を提出し、さらにそのまま自宅を売却してしまったことで、1年以上にわたる法的紛争に発展したケースをもとに、離婚と不動産売却の落とし穴を解説します。
この記事のポイント(要点まとめ)
- 財産分与・養育費を取り決めずに離婚すると、後から深刻なトラブルになるリスクが高い。
- 共有名義物件の売却には共有者全員の同意が原則として必要。一方が拒否すると売却が止まる。
- ペアローンは離婚後も両者が債務者のまま残り、金融機関への対応を怠ると契約違反になる可能性がある。
- オーバーローン(残債>売却価格)の場合は任意売却という選択肢があるが、手続きは複雑。
- 財産分与請求は離婚成立後2年以内が基本的な期限(民法768条)。速やかな対処が重要。
- 離婚に伴う不動産売却は、不動産会社・弁護士・税理士の連携が推奨されることが多い。
▲ 南千住エリアのマンション売却における離婚トラブルをテーマに解説します(イメージ)
田中夫妻に起きたこと――南千住マンション売却トラブルの実例(ストーリー)
以下はフィクションに基づく事例ストーリーです。実在の人物・団体とは関係ありません。ただし、内容は離婚と不動産売却において実際に起こりうる問題を反映しています。
離婚前夜:「お金の話は後でいい」という判断
荒川区南千住に住む田中健司さん(45歳)と美咲さん(43歳)は、結婚17年目を迎えた夫婦でした。中学2年生の娘・彩花さん(14歳)を抱え、長年すれ違いが続いた末、2025年秋にようやく「もう一緒にはいられない」という結論に至りました。
二人が住んでいたのは、南千住駅から徒歩8分の築20年の分譲マンション。3LDK、購入時に夫婦それぞれが単独で住宅ローンを組む「ペアローン」を利用しており、当時の残債は合計約3,500万円でした。物件の登記は夫婦の共有名義(各2分の1)です。
「財産分与のことは後で弁護士に頼めばいい」「養育費は毎月払うから安心して」――健司さんはそう言い、美咲さんもとにかく早く区切りをつけたいという気持ちから、それ以上追及しませんでした。2人は弁護士にも公証人にも相談せず、夫婦の協議のみで離婚届を提出。受理された日、美咲さんは彩花さんを連れて実家へ引っ越しました。
売却へ動こうとして、初めて気づいた「壁」
離婚から約3ヵ月。健司さんは1人でマンションに住み続けていましたが、維持費の負担と精神的な重さから「早めに売ってしまいたい」と考え始めました。美咲さんも、手元に資金が入れば娘と二人の生活を安定させられると期待しました。
ところが、不動産会社に相談した際、担当者から重要な事実を告げられました。「共有名義の物件を売却するには、共有者全員の同意が必要です。お二人の合意がないと、通常の売却手続きを進めることができません」。
さらに、ペアローンについても問題が浮上しました。健司さん名義のローンと美咲さん名義のローンが、それぞれ別の契約として存在しており、美咲さんが実家に転居してマンションを居住用として使っていない状態は、ローン契約上の「居住条件」に触れる可能性があると銀行から指摘を受けたのです。
「そんなこと、全然知らなかった」。美咲さんは青ざめました。
夫の同意拒否・ローン滞納・法的紛争へ
売却話を本格的に進めようとした矢先、健司さんが態度を変えます。「財産分与でもっと多くもらえるはずだ。このまま売却に応じる気はない」と言い出したのです。離婚時に財産分与の割合をきちんと書面で取り決めていなかったため、健司さんには「口頭の約束にすぎない」という主張の余地がありました。
一方で、健司さん自身も経済的に追い詰められつつありました。転職によって収入が下がり、毎月のローン返済(健司さん分:月約9万円、美咲さん分:月約8万円、合計約17万円)のうち、健司さん負担分を3ヵ月にわたり滞納してしまいました。
銀行から美咲さんに「ご主人名義のローンが延滞しています。ペアローンのためご連絡しております」という通知が届いたとき、美咲さんは自分の信用情報にも影響が出ることを知り、パニックに陥りました。
美咲さんはやむを得ず弁護士に依頼。家庭裁判所への調停申立を行いましたが、調停成立まで約9ヵ月を要しました。その間、養育費の取り決めもなかったため、健司さんが任意で送金していた月額は不定期かつ不十分なもので、美咲さんと彩花さんの生活は不安定なまま続きました。
解決まで1年超――失ったものとは
調停が成立し、財産分与(売却益を6対4で分配)・養育費(月8万円)が取り決められたのは、離婚から約13ヵ月後のことでした。売却自体もそこから3ヵ月かかり、最終的に手元に残ったのは当初の想定より大幅に少ない金額でした。
差し引かれた主な費用:
- 弁護士費用(美咲さん分):約60万円
- 健司さんのローン滞納による遅延損害金:約15万円
- 長期化による機会損失(売却時期の市況変動):試算不可
- 美咲さんの精神的ダメージ・彩花さんへの影響:数字で測れない
「最初に30分だけ弁護士か不動産会社に相談していれば、これだけ大変なことにはならなかったはず」。振り返った美咲さんの言葉は、同じ状況にある多くの方への警鐘となっています。
なぜトラブルになったのか――法的・金融的背景の解説
田中夫妻のケースには、複数の「落とし穴」が重なっていました。それぞれを整理します。
共有名義と「共有物分割」の問題
不動産を夫婦の共有名義で保有している場合、その売却には原則として共有者全員の合意が必要です(民法251条)。一方の共有者が売却に応じない場合、もう一方は単独では売却手続きを進められません。
田中夫妻の場合、財産分与の割合を書面で取り決めていなかったため、健司さんが「もっと多くもらえるはず」と主張する余地が生まれ、それが売却同意拒否のカードとして使われてしまいました。
ペアローンが離婚時に抱えるリスク
▲ ペアローンの仕組み(概念図)
ペアローンとは、夫婦がそれぞれ個別に住宅ローン契約を締結する形式です。借入額を合算できる反面、離婚時には以下のリスクが生じやすいとされています。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 居住義務違反 | 住宅ローンは「自己居住」を条件とするケースが一般的。離婚後に一方が退去すると、契約違反となる可能性がある。 |
| 返済継続義務 | 離婚後も両者が債務者のまま。一方が滞納すると、もう一方の信用情報にも影響が及ぶ場合がある。 |
| 売却時の同意要件 | 物件の売却・ローンの一本化には金融機関の承諾と双方の合意が原則として必要。 |
| 連帯保証の問題 | ペアローンでは互いが連帯保証人となっているケースが多く、一方が支払い不能になると他方に影響が及ぶ。 |
オーバーローンと任意売却
田中夫妻のケースでは、残債約3,500万円に対して売却査定額が約3,200万円前後という試算も出ており、オーバーローン(残債が売却価格を上回る状態)の懸念がありました。オーバーローンの場合、通常の売却では残債を完済できず、差額を自己資金で補う必要が生じます。
自己資金での補填が困難な場合、金融機関と交渉して担保を解除してもらいながら売却を進める「任意売却」という方法があります。ただし、任意売却は通常の仲介売却と異なり、金融機関・税理士・弁護士との複雑な連携が必要となるため、専門家への相談が不可欠です。
財産分与・養育費を離婚前に決めておくべき理由
▲ 離婚前に専門家を交えた協議を行うことが、後のトラブル防止につながります(イメージ)
財産分与とは
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産を、離婚時に公平に分け合う制度です(民法768条)。不動産・預貯金・有価証券・退職金なども対象となる場合があります。
財産分与の請求は、離婚成立後2年以内に行うことが一般的に求められています(除斥期間)。この期間を過ぎると原則として請求できなくなるため、離婚後も早期の対処が重要です。ただし、具体的な事情によって扱いが異なるため、弁護士への確認をお勧めします。
養育費の取り決めは公正証書で
養育費は、子どもが健やかに育つための重要な権利です。取り決めを口頭だけで済ませると、不払いが発生した際に強制執行(給与差し押さえ等)ができません。公正証書(強制執行認諾文言付き)として残すことが推奨されることがあります。
離婚と不動産売却の正しいステップ
離婚に伴う不動産売却を円滑に進めるために、一般的に推奨されるステップをご紹介します。各状況によって異なるため、必ず専門家に個別にご相談ください。
- 不動産の現状確認(査定・残債確認)
まず物件の市場価値を査定し、住宅ローン残債と比較して「アンダーローン」か「オーバーローン」かを確認します。 - 金融機関への事前相談
ペアローンの場合、売却・名義変更・借り換えのいずれを選択するにしても、金融機関への相談が先決です。事前に書面での確認を取ることを推奨します。 - 弁護士・司法書士への相談
財産分与の割合・養育費・親権・慰謝料など、法的事項は専門家に依頼します。特に子どものいるケースでは養育費の公正証書化を検討してください。 - 財産分与・養育費の書面化(公正証書推奨)
口頭約束ではなく、公正証書または調停調書の形で記録を残します。 - 離婚届の提出
上記の取り決めが完了した段階で離婚届を提出することが、リスク管理の観点から推奨されることが多いです。 - 不動産の売却または名義変更
合意内容に沿って売却・分割・名義変更を進めます。売却の場合は、媒介契約の締結から引き渡しまで通常2〜6ヵ月程度が目安です。 - 税務処理(譲渡所得税など)の確認
売却益が出た場合は譲渡所得税が発生する場合があります。離婚による財産分与の税務上の扱いは複雑なため、税理士への確認を推奨します。
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まとめ
田中夫妻のケースは、「早く終わらせたい」という心情から生まれた複数の「先送り」が、最終的に1年以上の紛争と多額のコストを招いた典型例です。
離婚と不動産は、どちらも人生の中で大きな決断を伴う手続きです。感情的になりやすい局面だからこそ、専門家の力を早期に借りることが、自分自身と子どもの将来を守る最善の策といえます。
- 財産分与・養育費は離婚前に書面(公正証書推奨)で取り決める
- ペアローン・共有名義の売却には金融機関と双方の同意が必要
- オーバーローンの場合は任意売却という選択肢があるが専門家への相談が必須
- 財産分与請求の除斥期間は原則として離婚後2年
- 不動産会社・弁護士・税理士の三者連携が推奨されることが多い
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コラム作成日:2026年2月28日
※本記事は作成時点の法令・情報に基づいています。法令改正や個別の状況によって内容が異なる場合があります。法律・税務・金融に関する判断は必ず専門家(弁護士・税理士・ファイナンシャルプランナー等)にご確認ください。
※本記事内のストーリーは実際に起こりうる問題をもとにしたフィクションです。実在の人物・団体・物件とは一切関係ありません。
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